インフルエンサー脱税事件、1.5億円のスキームを解説
SNSで人気を集めていたインフルエンサーが、法人税などおよそ1億5700万円を脱税したとして起訴され、東京地裁で有罪判決を受けました。判決の内容は、懲役2年6か月、執行猶予4年です。本人が経営する会社にも、罰金4000万円が言い渡されました。
この記事では、個人が特定される情報には触れず、事件の経緯と、実際に使われた脱税のスキームを整理します。フリーランスや個人事業主が、同じ失敗を繰り返さないための注意点も、あわせて紹介します。
事件の概要
今回の事件は、SNSで商品を紹介するインフルエンサー活動を行い、広告関連の会社を経営していた人物が、複数年にわたって、法人税などを脱税していたというものです。対象となった期間は3年間で、脱税額は、法人税や消費税をあわせて、およそ1億5700万円にのぼります。
東京国税局の査察(強制調査の権限を持つ税務調査)を経て、検察官により起訴されました。裁判では、起訴内容を認めたうえで、審理が進められました。
脱税に至った経緯
報道によれば、本人は、SNSでの商品紹介を通じて、フォロワーが商品を購入することで、報酬を得る形の活動を行っていました。フォロワー数は数十万人規模にのぼり、事業の売上は、本人の想定を超える規模まで、拡大していったとされています。
この急激な収入増加が、結果として、正しい納税に対する意識の甘さにつながった、という点が、今回の事件の背景として語られています。事業が急成長する中で、税務処理が追いついていなかった、という状況です。
脱税のスキーム
今回の事件で使われた手口は、大きく分けて、次の2つです。
架空の業務委託費の計上
実際には発生していない業務委託費を、経費として計上する方法です。これにより、帳簿上の利益を圧縮し、納めるべき税額を、少なく見せかけていました。検察側は、この経費計上について、「多額の架空経費を計上しており、計画的かつ常習的な行為である」と、指摘しています。
協力者による架空領収書の発行
この事件では、架空の領収書を発行するなどして、脱税を手助けした男性2人も、あわせて有罪判決を受けています。実態のない取引について、あたかも実在するかのように、領収書を作成してもらう。この手口は、税務調査で発覚しにくくするための、典型的な工作です。
判決の内容
裁判所は、判決の中で、「強固な犯意に基づき、一定の計画性も備えている。動機は身勝手で、責任は重い」と述べています。一方で、次のような事情が、執行猶予が認められた理由として、あげられています。
- 起訴内容を全面的に認めていること
- すでに修正申告(誤りがあった申告内容を、自主的に訂正する手続き)を終えていること
- 脱税した税額を、全額納付していること
最終的な判決は、本人に懲役2年6か月、執行猶予4年です。求刑と同じ内容が、そのまま認められる形になりました。会社に対しても、罰金4000万円が科されています。
なぜ個人事業主・インフルエンサーで起こりやすいのか
今回のような事件は、特別に珍しいものではありません。個人事業主やインフルエンサーの脱税が、たびたび報道される背景には、いくつかの共通点があります。
1つ目は、収入の急拡大に、経理体制が追いつかないことです。個人で活動を始めた人が、想定を超える収入を得るようになっても、税務処理を、これまでと同じ体制で続けてしまうケースは多いです。
2つ目は、事業とプライベートの支出が、混在しやすいことです。個人事業主は、法人と比べて、事業用とプライベート用の口座や支出を、明確に分けていないことがあります。この境目のあいまいさが、架空経費の計上といった、不正の温床になりやすい面があります。
個人事業主・フリーランスが気をつけるべきこと
今回の事件から学べる、実務上のポイントを整理します。
- 収入が急に増えた時こそ、早めに税理士へ相談する
- 実態のない取引を、経費として計上しない
- 事業用とプライベート用の口座を、明確に分けて管理する
- 領収書や請求書は、実際の取引にもとづくものだけを使う
- 収入や経費の記録を、日頃からこまめに残しておく
脱税は、意図的な行為だけが対象になるわけではありません。結果として、正しい納税額を大きく下回ってしまえば、意図の有無にかかわらず、重大なペナルティにつながるリスクがあります。日頃からの適正な記帳と、早めの専門家への相談が、何よりの備えになります。
まとめ:急成長する事業ほど、早めの税務対応を
今回の事件は、SNSでの活動から生まれた急激な収入拡大に、税務処理が追いつかなかったことが、大きな要因になっています。架空の経費計上と、それを裏づける架空の書類作成という手口は、発覚すれば重大な刑事責任につながります。
事業の成長は、喜ばしいことです。しかし、成長のスピードが速いほど、税務処理の体制づくりも、並行して急ぐ必要があります。収入が増えたタイミングこそ、税理士に相談する良い機会だと捉えましょう。
※本記事は、2026年7月時点で報道された公開情報にもとづいて作成しています。個人が特定される情報は、記載していません。