経費精算を利用した横領の手口、過去の実例と防止策を解説
経費精算は、企業の中で最も横領(従業員が、業務上預かっている会社の金銭を、不正に自分のものにする行為)が起こりやすい領域のひとつです。少額の申請を積み重ねる手口が多いため、発覚まで長期間かかるケースも珍しくありません。
この記事では、経費精算を悪用した横領の代表的な手口を整理したうえで、実際に報道された事件、発覚のきっかけ、そして企業が取るべき防止策まで解説します。
経費精算の横領でよく使われる手口
結論として、経費精算の横領は、次の4つのパターンに大きく分けられます。
| 手口 | 概要 |
|---|---|
| 架空請求・カラ出張 | 実際には行っていない出張や取引を、あったことにして請求する |
| 水増し請求 | 実際の金額よりも高い金額で、領収書を偽造・改ざんする |
| 私的流用 | 私的な飲食代や買い物代を、業務上の経費と偽って申請する |
| 取引先との共謀 | 取引先に架空の請求書を発行させ、キックバックを受け取る |
いずれの手口も、最初は少額から始まることが多いです。「これくらいなら、ばれないだろう」という気持ちが、次第に金額と回数を増やしていく、という点が共通しています。
手口1:架空請求・カラ出張
もっとも典型的なのが、実際には行っていない出張を、行ったことにして請求する「カラ出張」です。存在しない取引先訪問や、開催されていない会議の経費を申請するケースも、同じ分類に入ります。
この手口は、出張先の状況を、会社側が細かく確認しづらいために起こりやすいという特徴があります。特に、営業職や、単独で外出する機会が多い職種で、発生しやすい傾向にあります。
手口2:交通費・出張旅費の水増し
交通費の不正請求も、非常に多く見られる手口です。安い交通手段で通勤しているにもかかわらず、高い交通費を申請したり、実際には利用していない新幹線代を請求したりするケースがあります。
領収書を偽造する手口もあります。白紙の領収書を受け取っておき、後から自分で金額を書き加える、という方法です。クレジットカードで決済したあとに、利用明細を経費申請の証拠として使い、決済自体はキャンセルして返金を受ける、という悪質な手口も報告されています。
手口3:接待交際費の私的流用
接待交際費は、内容が見えにくいため、私的流用が起こりやすい項目です。家族や友人との食事代を、取引先との接待だと偽って申請したり、実際の接待費用を水増ししたりするケースがあります。
この手口は、複数の社員が関わることもあります。社内の飲み会の費用を、接待と偽って計上する、というパターンです。1人あたりの金額は小さくても、繰り返されることで、被害が大きくなっていきます。
手口4:取引先と共謀した架空請求
最も悪質とされるのが、取引先や仕入先と結託する手口です。実際にはかかっていない費用について、取引先から架空の請求書を発行してもらい、その代金を、あとで個人的に還流してもらう、という方法です。
このケースでは、社内の稟議や承認の記録だけを見ても、不正を見抜きにくいという特徴があります。取引先という「外部の協力者」が存在するため、発覚が遅れやすい手口です。
過去に報道された事件
ここでは、実際に報道された、経費精算に関わる横領事件を紹介します。企業名や金額は、公表された報道内容にもとづいています。
大手機械メーカー子会社の経理責任者によるケース
2026年、大手機械メーカーであるCKDの子会社で、経理の責任者を務めていた元社員が、業務上横領の疑いで逮捕されました。この年の1月から4月にかけて、18回にわたり会社の口座から金銭を引き出し、着服した総額は、1億7800万円にのぼるとされています。捜査では、着服した資金が、競馬に使われた疑いがあるとみられています。
大手食品会社グループの執行役員によるケース
大手食品会社である三菱食品の連結子会社では、執行役員が、架空の請求書を偽造する手口で、約10年にわたり、合計9億8000万円相当を着服していたことが明らかになりました。長期間にわたって発覚しなかった点が、この事件の特徴です。
公益法人の経理担当職員によるケース
北海道消防協会では、経理を担当していた職員が、銀行口座から約7000万円を着服していたことが判明しました。企業だけでなく、公益法人であっても、経理担当者による横領は起こりうるという事例です。
発覚のきっかけと法的責任
これらの事件に共通するのは、経理業務を、特定の担当者が長期間にわたって、1人で担っていた点です。チェックする体制がないまま、権限が集中すると、不正が見つかりにくくなります。
発覚のきっかけとしては、担当者の異動や交代、社外からの偶然の指摘、税理士への資産相談などが、多く挙げられます。日頃から業務を1人に任せきりにしないことが、早期発見につながります。
経費精算の不正が発覚した場合、行為者は、業務上横領罪(刑法253条、10年以下の懲役刑)や、詐欺罪(刑法246条、同じく10年以下の懲役刑)に問われる可能性があります。また、着服した金額が、経費として計上されていた場合、会社側にも、追徴課税などの税務上のリスクが及ぶことがあります。
企業が取るべき防止策
最後に、経費精算の横領を防ぐために、企業が取り組むべき対策をまとめます。
- 経理担当者を、定期的にローテーションする
- 出金や承認の際に、必ず複数人でダブルチェックを行う
- 領収書だけでなく、利用目的や相手先の記載を、あわせて義務づける
- 経費精算システムを導入し、申請内容を自動でチェックする体制を整える
- 抜き打ちでの監査や、取引先への確認を、定期的に実施する
横領の多くは、最初から大がかりな計画のもとで、行われるわけではありません。「少額だから大丈夫」という考えが積み重なり、次第に金額が膨らんでいきます。日頃からのチェック体制が、被害を未然に防ぐ、最も確実な方法です。
まとめ:小さな不正を見逃さない仕組みづくりを
経費精算の横領は、架空請求、水増し請求、私的流用、取引先との共謀という、4つの手口に大きく分けられます。過去の事件を見ても、権限の集中と、チェック体制の不足が、被害拡大の共通点でした。
経理担当者を孤立させず、複数人でチェックできる仕組みを整えることが、何よりの予防策です。日々の小さな確認の積み重ねが、大きな被害を防ぎます。
※本記事で紹介した事件は、報道された公開情報にもとづいています。詳細は、各報道機関の記事をあわせてご確認ください。