給与明細の控除とは|保険料と税金の決まり方を解説

給与明細の控除とは|保険料と税金の決まり方を解説

給与明細を見て、「額面と手取りの差が、こんなに大きいのか」と、驚いた経験はないでしょうか。結論から言うと、この差は、社会保険料と税金という、5種類の控除(給与から差し引かれる金額)によって生まれています。

この記事では、控除の内訳、それぞれの金額がどう決まるのか、そして「昇給したのに、手取りがあまり増えない」と感じる理由まで、具体的に解説します。

額面から手取りまでの流れ
図1:額面から手取りまでの流れ

控除の全体像

給与明細に記載される控除は、大きく分けて、次の5種類です。

控除の種類分類
健康保険料社会保険料
厚生年金保険料社会保険料
雇用保険料社会保険料
所得税税金
住民税税金

一般的な会社員の場合、額面給与の合計から、これらの控除を差し引いた金額の、およそ7割から8割程度が、手取りとして支給されます。控除の割合は、給与水準や、家族構成によって変わります。

結論:控除は、大きく「社会保険料」と「税金」の2つに分けられます。それぞれ、決まり方の仕組みが、まったく異なります。

社会保険料の決まり方

健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料は、社会保険料としてまとめられます。このうち、健康保険料と厚生年金保険料は、「標準報酬月額(社会保険料を計算するために、給与を一定の幅で区分した金額)」をもとに決まります。

標準報酬月額の決め方

標準報酬月額は、原則として、毎年4月から6月に支払われた給与の平均額をもとに、決定されます。この手続きは、「定時決定」と呼ばれます。決定された標準報酬月額は、その年の9月から、翌年の8月まで適用されます。

そのため、4月から6月にかけて、残業が多く、給与が一時的に増えると、その年の社会保険料も、高くなりやすいという特徴があります。

ポイント:4月から6月の給与が、その年の社会保険料を左右する。この仕組みだけを見ると、「その時期の給与を抑えれば、保険料を安くできるのでは」と考える人もいます。しかし、この考え方には、見落としがあります。詳しくは、後の章で説明します。

雇用保険料の決め方

雇用保険料は、標準報酬月額ではなく、毎月の給与額に、一定の料率をかけて計算されます。そのため、月ごとの給与額が変われば、雇用保険料も、その都度変動します。

標準報酬月額が決まる仕組み
図2:標準報酬月額が決まる仕組み

「4〜6月の給与を下げれば得」は本当か

ここで、多くの人が一度は考える疑問に、答えておきます。「4月から6月の給与を意図的に低くして、7月以降に高くすれば、社会保険料を安く抑えられるのではないか」という考え方です。結論から言うと、この方法で、社会保険料の負担を抑えることはできません。その理由を、3つに分けて説明します。

理由1:随時改定という仕組みが働く

社会保険料は、年に1回の定時決定が基本です。しかし、年の途中で、基本給や固定手当(毎月決まって支払われる手当)が大きく変わった場合には、定時決定を待たずに、保険料を再計算する「随時改定(ずいじかいてい)」という仕組みがあります。

随時改定は、次の3つの条件を、すべて満たした時に適用されます。

  1. 基本給や固定手当が、変更されたこと
  2. 変更後3カ月間の給与の平均が、それまでの等級と比べて、2等級以上の差になったこと
  3. その3カ月間、毎月17日以上、勤務していること

もし、4月から6月の基本給を大きく下げ、7月から大きく上げた場合、7月・8月・9月の高い給与をもとに、随時改定が行われます。結果として、10月からは、高い給与に見合った社会保険料に、修正されてしまいます。

随時改定によって、安く抑えられる期間は数カ月にとどまる
図:随時改定によって、安く抑えられる期間は数カ月にとどまる

理由2:残業代だけを調整しても、得にはならない

「基本給は変えず、残業代だけを4月から6月にゼロにすればよいのでは」と考える人もいます。確かに、残業代のような、月によって変動する手当(非固定的賃金)だけの変化では、随時改定は発動しません。

ただし、この方法にも、大きな見落としがあります。4月から6月の残業代をゼロにすれば、その分の収入も、単純になくなります。翌年の社会保険料が多少下がったとしても、そもそも受け取れなかった残業代のほうが、金額として大きくなるケースがほとんどです。加えて、特定の3カ月だけ、残業を極端にずらすことは、業務の都合上、現実的ではありません。

理由3:意図的な操作は、監査でペナルティの対象になる

特に、経営者や役員の場合は、注意が必要です。役員報酬を、4月から6月だけ意図的に低く設定し、7月から引き上げるような操作は、年金事務所の調査や、税務署から、不適切な保険料・税金の回避とみなされる可能性があります。

役員報酬の変更は、法人税法によって、原則として、事業年度の開始から3カ月以内に行う、年1回の改定であることが求められています。年の途中で、頻繁に金額を変えると、その役員報酬が、会社の経費(損金)として認められなくなり、法人税の負担が増えるリスクがあります。

結論:4〜6月の給与を調整する方法は、随時改定という仕組みと、役員報酬に関する税法上のルールによって、実効性のない対策になっています。裏技のように見えて、実際には、リスクのほうが大きい方法です。

現実的に取れる対応

給与を意図的に操作するのではなく、次のような、正攻法での対応が、安全かつ効果的です。

所得税の決まり方

所得税は、毎月の給与から、あらかじめ会社が差し引いて納める、源泉徴収(会社が従業員に代わって、所得税を天引きし、納税する仕組み)という方法で、徴収されます。

毎月の源泉徴収額は、その月の給与額と、扶養親族の人数をもとに、国税庁が定める「源泉徴収税額表」にあてはめて、計算されます。ただし、これはあくまで概算です。年末になると、年間の所得が確定するため、「年末調整」という手続きで、正しい税額に精算されます。

住民税の決まり方

住民税は、所得税と異なり、前年の所得をもとに、金額が決まります。この点が、住民税の最大の特徴です。

項目所得税住民税
基準となる所得その年の所得前年の所得
反映のタイミングその月の給与に、すぐ反映翌年の6月から、反映される

そのため、前年に収入が多かった人は、翌年の給与が下がっていても、住民税の負担は、前年の水準のまま続きます。転職や退職の直後に、「住民税の負担が重い」と感じるのは、この仕組みが原因です。

実務での視点:筆者が退職の相談を受ける中でも、「前職を辞めたのに、住民税の請求が来た」と驚く人が、毎年一定数います。住民税は、1年遅れでやってくる税金だと、覚えておくと安心です。
所得税と住民税、反映タイミングの違い
図3:所得税と住民税、反映タイミングの違い

なぜ「手取りが増えない」と感じるのか

昇給したのに、手取りがあまり増えないと感じる背景には、社会保険料の仕組みが関係しています。給与が上がると、標準報酬月額の区分も上がり、それにともなって、社会保険料の負担も増えます。

さらに、所得税は、所得が増えるほど、税率も段階的に上がる「累進課税(所得が多いほど、高い税率が適用される仕組み)」を採用しています。額面が増えても、控除される金額も、同時に増えていく。これが、「手取りの増え方が、額面ほど大きく感じられない」理由です。

手取りを増やすためにできること

控除の仕組みを理解したうえで、手取りを増やすために、個人でできる工夫もあります。

これらは、いずれも合法的に、税や社会保険料の負担を、適正な範囲で調整する方法です。仕組みを知っているかどうかで、手取り額に差が出ることもあります。

まとめ:控除の仕組みを知ることが、家計管理の第一歩

給与明細の控除は、社会保険料と税金という、性質の異なる2つの要素で構成されています。社会保険料は4月から6月の給与、所得税はその月の給与、住民税は前年の所得と、それぞれ基準になるタイミングが違います。

この仕組みを理解しておくと、「なぜ今月は控除が多いのか」「なぜ手取りが増えないのか」といった疑問に、自分で答えられるようになります。給与明細は、毎月受け取るものだからこそ、仕組みを知っておく価値があります。

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